Happy New Year (2006)

hidizo2006-09-11



初期は暴力的な音色とゴツゴツしたリズムで、ミニマムのような反復を執拗に繰り返す手法でショックを与え、徐々に「反復」をキーワードにサイケデリックなドローンや、「長尺で全く展開しない」コンセプチュアルな方向に向かい、近作では逆に「反復」を外した自由な作りに向かっているアメリカのバンド、オネイダ。
前作では弦楽四重奏団を使い、マイケル・ナイマン・バンドとDCハードコアが出会ったような楽曲を登場させた。
本当にどこに向かうか判らないスリルを味合わせてくれる希有なバンドだ。
勤勉なことに、1年を開けず新作が登場してきた。


1曲目の「Distress」。いきなり、「スカボロー・フェア」そっくりの英国トラッド風の歌メロが登場。背後ではワウをはめたようなキーボードやゆったりしたドラムが不可解に鳴る。キャッチーとは言い難く、ショッキングでもないが、相当奇妙な出だしだ。
このバンド、それまでの作品を聞いてきたリスナーが望まないようなものをわざわざ提示しておきながら、最期には「アリだな」と思わせる奇妙な説得力を持たせているのが最近の傾向だが、今回もそう。

ハードコア的な疾走感をもつ曲があったり。
スーサイドみたいなチープな打ち込みにアコギや時計のねじを巻くようなノイズが絡んできて奇妙なポップさを醸す曲があったり。
かと思えば、アラブのウードみたいな旋律をマンドリンで弾きまくりメランコリックな歌が乗る曲があったり。
カンの「スプーン」みたいなポップじゃないけど妙に人なつこい曲があったり。
最期は7分ほど、気怠い歌と重いリズムが緩やかに反復して聞き手を脱力させる曲でどんよりと終わっていく。
ここ数作同様、曲ごとにコンセプトはバラバラながら、妙な惹きが満載。
前作で大胆に使った弦楽四重奏団などのゲストはなく、アンサンブルもシンプルになり、地味に聞こえる作品だが、噛むほどににじみ出す深い滋味と、アイデアの豊富さにうならされる。


今作、実はあるバンドに大変近い方向性を感じた。
それは、キャンパーウェル・ナウ。チャールズ・ヘイワードがディス・ヒートの後にやっていたバンド。ディス・ヒート的な反復やノイズなどの指向性も残しつつ、より落ち着いたクールさを醸したバンドだ。妙に哀感のある旋律と、反復やインプロや実験性などの音楽的な共通項もあるけれど、何より冷徹なようでエモーショナル、諦めているようで往生際が悪い理想主義、というあのバンドの空気感を思い出させる仕上がりになっている。

とはいえ、フォロワーとおぼしき部分が余り無いのが素晴らしい。これは、作品ごとの流れを追っていれば判ることなんだけれど、やりたいことをどんどん構わずやっていく自由さと、本人達の資質としての「暗さ」が合致したとき、たまたまキャンパーウェル・ナウみたいになってしまった、というだけのことだ。


多分、上記の内容に何か引っかかった人は十分楽しめると思うのだけれど、追いかけて聴いて来てここにたどり着いた、という私の感動は判りづらいかもしれない。
出来れば数作、旧作をお聴き頂きたい。その価値は十分ある。
今作も傑作として決定。


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