Pure Reason Revolution 「Cautionary Tails For The Brave」

hidizo2005-12-12



英国の新人バンド。
CDは紙製のスリップ・ケースに入っていて、業界紙のお褒めの言葉がステッカーになって張り付いている。で、そのNMEの文面がどうにもカチンと来る。曰く、
" Final proof that PROG is no longer a four letter word"
海外ではプログレって"PROG"って言われていて、日本での扱い以上に微妙な空気だったりする。要は"nard"とかに対する空気みたいなモンでしょう。その一方、各地で結構デカい"Prog Fes."ってのは行われていて、トリがジョン・ウエットンとかフラワー・キングスで、シンポジウムみたいなのにはジェントル・ジャイアントのギャリー・グリーンが呼ばれてる...、てなブッキングをネットで見ることも多い。

で、つまりこのイギリスの若手バンドは「そういうProgバンドとは違うんですよ〜」って事が言いたいんだろう。しかし洒落とはいえ四文字言葉ってのは酷いんじゃないかい。


さてこのバンドですが、いわゆるスタイルとしての昔のプログレとは一見違うので、最初「何でこれがプログレなの?」と思うはず。
リズムは明らかにテクノやハウスを通過。フレーズの作り方にもクラシックやジャズ等の別のジャンルを組み込むような越境性はなく、90年代以降のギターバンドのような臭みの薄いスムーズなメロディが多い。
たとえばクーラー・シェイカーとかミュージックとかスマパンみたいな味がする。
ですので、プログレ界隈では未だ知名度が低く、UKのギターバンドを聴いてる人たちの間での知名度に止まっているのも頷ける。


しかし、確かにこれは「プログレに聞こえる」。
一番顕著なのは、臆目もなくドラマチックだということでしょう。70年代のバンドの持つあの特有のコッテリした質感はないんですが、メロディを何段も用意していたりする辺りに、その臭いがある。言語化しづらくて申し訳ないんですが、大仰さのベクトルがメタルじゃなくてプログレって感じ。
全体的にアネクドテン辺りを思わせる妙な乾き具合もあるものの、あの暗さや重さとは無縁。そして、後進のプログレバンドの多くがハマっている「クリムゾン」があんまり入っていないから、メタル臭が薄いのかもな。

これはミニアルバムだが、4曲のうち2曲がパート1,2に分かれていて、しかもその2曲は明らかに関連性があるので、実質上4部構成の組曲と言えるはずだ。そのパート分けも、大まかには静と動に分断されている。「静」のパートの時の質感は、音響っていうより「エコーズ」みたいで、そこから「きたきたきたきた」という盛り上がりが。その辺にはシンフォニック・ロック特有のドラマに近い感触があって、総じて「ウィ・キャント・ダンス」の頃のジェネシスを思わせる。で、12分の大曲を筆頭に、たった4曲なのに、27分近い時間を要するのもそういう事だったりする。
また、ビーチボーイズCSNYのファンらしく、妙に喉ごしの良さげな男女のヴォーカルやコーラスの立て方に、複数のリード・ヴォーカルを要するバンドの影響が伺える。

こういう、過去の遺産の存在をしっかり感じさせながら、そのデッドコピーに囚われない新鮮なサウンドを作っていくのって、思っている以上に難しいはず。少なくとも、(私も好きなバンドが幾つか居たので大声では言いたくないが)ポンプ・ロック勢よりは遥かに発展性や現代性がある。

頼もしいのが、彼らって最初がPOPTONEで現在がBMGと契約している点かも知れない。「趣味」以上の広がりと覚悟がそこにはある。たしかまもなく、フル・アルバムが出るはず。かなりでっかく注目したい。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000B8TO4E/goodasgoldstu-22


追記:その後、めでたく1stフル・アルバムがリリースされました。
http://d.hatena.ne.jp/hidizo/20060513