The Beach Boys 「Friends」

hidizo2005-12-17



今やビーチ・ボーイズというと「ペット・サウンズ」周辺の歪みまくった時期ばかりが語られるので辟易しないでもない。ですが、これも当にその時期のアルバムですね。
書き出しとしては適当じゃないな。
さて、リリースは68年。67年の「スマイル」の消化試合的な微妙な作品である「スマイリー・スマイル」と、どういう訳かソウル的なエモーションを湛えた歌とアレンジ(久々にバンドの自前の演奏だ)と、微妙なエロをまぶした歌詞で、若干大人びた印象の「ワイルド・ハニー」という商業的に失敗した2作に続いて登場しただけあって、レコード会社は彼らに余り期待しなくなってきた。皮肉にも、多少のんびりとしたペースで制作に当たることが出来たわけだ。
録音はブライアンの自宅のスタジオ。演奏がバンド自前だった前作とは違って、また演奏はセッション・マン達によるらしい。ただ、ブライアン以外のメンバーが共作者として名を連ねているのが目に付く。


しかしこれはヤバいですよ。
音響や加工に関しては、ヴォーカルをレズリーに通したりはしてるけど、表層的にはサイケ感は薄い自然な印象。しかしそのベーシックな佇まいの中でいろいろな物が歪んでいる。
変形ボサノヴァとか、ゴスペル風とか多彩なアレンジが施された曲が多いが、ほとんどマーティン・デニーのエキゾチックもの紛いの、箱庭的に記号化されたハワイ(スティール・ギターの音などが使われた)を思わせる「ダイアモンド・ヘッド」など、海や夏を自嘲的に扱ったような曲が目立つ。
曲は、例によって分かり易いようで不可解にクネクネうねっているブライアン節と、デニスらによる素直な曲が適当に並んでいる。
アルバム自体30分もなくて、しかも曲尺が1分台のが殆どなんだけど、よく解らないタイミングでフェイドアウトしていくのが不気味。デモテープをわざわざリリースしたみたいだ。あるいは、ガイデッド・バイ・ヴォイセズのような適当さ。

数作前の、歪みの中に夢幻の耽溺をかいま見せる感じがなく、極めて牧歌的なムードではあるのだが印象としては現実的で、しかも虚脱感/無力感に直結してるような不吉さが臭う。

この背後には、デニスとマイク・ラヴビートルズとの関係でも知られるマハリシ・ヨギにどっぷりハマってしまった当時の状況があるらしい。ビートルズ(ジョン・レノン)が「ホワイト・アルバム」で「セクシー・セディ」等の曲で彼の聖人を「イカサマだ」と糾弾してた時期なのに、彼らは未だハマったまんまの状態。
で、そういう新興宗教がらみのテーマがある「トランセンデンタル・メディテイション」などの曲で無邪気に宗教を賛美している節すら有る。そのドラッグ+宗教の満足感が、不吉な牧歌感を生んだんだろうな。


ハイ・ラマズが意識的にやったことを、無意識とか本人にしか判らない必然で作り上げてしまった奇作。この病みっぷりは、彼らのどの時代の歪みとも異なる、独特の無邪気さや牧歌性を湛えていて、静かな中に強烈な印象を残す。「ペット・サウンズ」と並べて聴くとその独自の闇が堪能できよう。
これを「心地よい」とか書いてるレビューを見ることもあるが、こんな歪んだものを単純に心地よいと言えるなら、それはそれでお目出度いことだと思う。恐ろしいよ。この闇は。


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※このアフィリエイトは「20/20」との2in1。一層適当且つ微妙さが際だつ並びになっている。12曲目まで聴いたら一旦CDを止めるべきだ。