デヴィッド・キャシディ「青春のポートレート」

hidizo2005-12-20



日本が世界初CD化、これは誇って良いでしょう。
彼はパートリッジ・ファミリーのテレビショーで有名な、70年代の男前の青春スター。
まあ、お塩先生とかが「ロックやってる」ってごねてるような、いわば芸能人による「アーティスト宣言」と見なされた一枚だったわけで。
しかし、彼は音楽的にも有能だったし、何よりもアルバムを囲む友人関係に大変恵まれていたのです。ブルース・ジョンストンとカール・ウイルソン(ビーチボーイズ)、リッチー・フューレイ、アメリカ(バンド名の方ですね)の面々。75年という制作時期に置いて、西海岸を代表する人たちが彼を支えているわけです。

全曲が珠玉のポップ・ソングばかり。
エルトン・ジョンとかアメリカとか、70年代の非AOR系の良質なポップ・サウンドの傾向に一致したアイドルのアルバムにしては派手さに欠ける渋い内容です。
A面はMFQやジョンストンの渾身の名曲「歌の贈り物」、さらには「ビーバップ・ア・ルーラ」のカバーまでぶち込んで、渋いなりに煌びやかなポップスが並んでロックスターの栄生を描きます。B面は落ちぶれてホームレスになったロックススターの所に記者が取材に来る設定のダイアログまで入って、カントリー・ロック的だったり渋めのファンキーな音作りでまるでポコみたいな音で泣かせる本人のオリジナル曲中心。
つまり、両面がまったく違う作りの言わばコンセプト・アルバム。


アルバム邦題こそあんな調子ですが、元のタイトルは
「The Higher They Climb The Harder They Fall」。
ジミー・クリフの曲名を思い出させますが、そういうことです。
アイドルが落ちぶれてしまった自分を想像しながら歌う、いや寧ろ落ちぶれることを望んでしまっている生前葬/自殺サウンド。このキツ過ぎる皮肉は当然通用せず、リリース当時はさっぱりだったそう。
ジャケットも実に意図的。表ジャケは星をつかみかけているものですが、裏では表ジャケで着ている衣装だけが地面に落ちていて燃やされている。
で、所詮アイドル、みたいな扱いだったためCD化も遅れまくっていたわけで。歌詞対訳ライナーも丁寧な仕事で愛を感じます。


こういう悲哀とユーモアは、主に英国人が得意としていたはずで、その結果がサウンドにも反射しているのか、中期キンクスを思わせる部分も少なくありません。
最近はCDが廃盤になるスピードも尋常じゃないので、急ぎでの入手をお奨めします。

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