Spin Doctors 「NICE TALKING TO ME」

hidizo2005-10-19



店頭で見かけたときには、また廉価ベストでも出たのかと思った。が、新録だ。心臓が止まるというと大げさですが、それにちょっと近い驚きが。

ジミヘン〜ファンク間を行き来するギター、黒人のベーシストを擁する跳ねるリズム隊と、ラップの影響が感じられるトーキング・スタイルのヴォーカルを掛け合わせた結果、なぜかサザンロックに近い泥臭さを醸し出す、ありそうでないバンド。下世話で伸びやかな曲がまた堪らない。新しいようで時代錯誤のような音楽性同様、なかなか不思議な立ち位置で、出身がニューヨークというのも意外だった。

しかし99年、ヴォーカリストのクリス・バーロンが、声が出なくなる奇病を患い、バンドを離脱せざるを得なくなる。骨太のサウンドと、彼の肩の力の抜けた柔らかい声の対比が最も大きな魅力だったため、脱退は痛手だった。当時はデイヴ・マシューズ・バンドなど、ファンク/ジャム・バンドの人気が勃興していた頃。間違いなく追い風だった筈なのに、活動は尻つぼみになっていく。死んだという噂まで流れたりした。何とかバーロンの声は戻ってきたが、バンドで活動するには至らない状況が続いた。

しかし、昨年終わり頃にバンドのオフィシャルのHPを観ると、ライブを再開していた。が、一向にレコーディングの話もなく、暫しHPも見ていなかった。
そしたら店頭でいきなりこの新作を発見。驚きましたね。90年代前半はメガヒットを飛ばしていたのだが、さすがに現在のアメリカはしょっぱい状況ゆえ、インディーからのリリース。

嬉しいことにこのアルバムではバーロンの他にエリック・ツェンクマンも復帰した。彼は、2nd「ターン・イット・アップ・サイド・ダウン」リリース後に脱退。その切れ味鋭いクセまみれのカッティングを失ったためか、次作の「ユーヴ・ガット・トゥ・ビリーヴ・イン・サムシング」以降はゴスペルやサルサなどの要素も取り込んで、音楽性をどんどん膨張させていった。つまり本作は「ターン・イット・アップ・サイド・ダウン」の頃の彼らの王道のスタイルに近いわけだ。
例のカリカリに乾いた変な和音のファンク的なカッティングを聞かせるギター。ヌケが最高にいい乾いたスネアをリベットのように打ち込んでいくドラム。豊かにうねる低音で屋台骨を支えるファンキーなベース。以前と変わらない個性的なメンバーの演奏を一杯に詰め込んだファンキーなグル−ヴ。そこに乗ってくるクリスの声。多少しわがれてはいるものの、全く問題なし。お恥ずかしながら、嬉しくて少し泣いた。

切れ味重視のブルーズ/ファンク的な曲と、ポップなロックンロール、田舎臭くも美しいバラード。曲ごとに演奏の表情を変える音楽的な振り幅が有りつつ、借り物っぽさが無い一体感。これぞアメリカのロックという豪快さとリリカルな繊細さの共存。バンドのマジックという、ありきたりな、しかし美しい言葉がここにはある。

なお、店頭で買ったものにはDVDが付いていた。ライブが4曲と再結成までのショート・ドキュメントが見られる。流石希代のライブバンド、見た目こそ老けて太ったけど、演奏自体は完璧だ。


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