ロジャー・モリス 「ファースト・アルバム」

hidizo2005-10-28



「隠れ名盤」と称して私がこねる理屈があって、条件としては「レコード自体が隠れていること」と「バンド自体が隠れていること」を強引に挙げますが、 それよりもっと切ないのが「幻の名盤」とでも申しましょうか。隠れるどころか全く埋没してしまった作品ですな。
しかし、インターネットによって世界中の好事家を対象にすれば商売になる、と言うことで次々と埋蔵されてたものが発掘され続けております。大概、「名盤」の呼称は物凄く大げさだよな。という物が多いんですがね。
私の場合は英国産のルーツ・ロック/フォークもので結構良かったモノがありましたね。ヴァシュティ・バニヤンとかブリン・ハワースとかビル・フェイとか。

で。これもまさしく「幻」以外の何物でもない。
ロジャー・モリス
だれだそれ。名前も平凡すぎるのが余計にそういう気概を抱かせる。


中身は100%英国風ザ・バンド
「ビッグ・ピンク」の衝撃を受けたミュージシャン達がカントリー等のアメリカ南部の深淵に触れようと試行錯誤していた時期。「まんまバンドじゃん!」と突っ込みの一つも入れたくなる反面、どうしても英国故の地肩の弱さゆえ弱っちい仕上がりになってしまい、それがとても愛おしくて仕方がない。という味わいを醸し出す例は多い。
クラプトンの初期のあの間抜けなヴォーカル(ギターが本格的な故余計に目立つ)や、わざわざデカい編成で情けないサウンドを作っていたRCA 時代のキンクスはその最たるもの。勿論、ジョージ・ハリスンという歌・ギター・作詞作曲全てにおいて非の打ち所のないしょぼしょぼ王が燦然と君臨しているわけですが。
特にパブ・ロック勢のしょぼい感じは最高で、ブリンズレー・シュワルツの「シルヴァー・ピストル」のあの間抜けさしょぼさは、狂おしいほどだ。

その「シルヴァー・ピストル」を思わせる質感で彩られたのが、この71年発表の1st。プロデュースはケン・バージェスとキース・ウエスト。後者はトゥモロウのヴォーカルです。サイケの人が何故?と思ったりもしますが、「ムーンライダー」という南部かぶれのバンドを率い、いなたさ満開のアンカー・レコードからアルバムを出したりしてるわけで、的はずれではないんですな。人に歴史有り。


ペダル・スティールにグレン・キャンベル、ベースにディライル・ハーパー(ストローブス)などを配した演奏は、滋味も含みもたっぷりで、細やかなニュアンスの豊かさにウットリさせられる。
それを背負うモリスの歌がまた、英国風の細いヨレ方をしていて最高です。なんなんでしょう。この枯れ葉を踏みしだいて歩くような感じは。そもそもザ・バンドに憧れるには青すぎるこの声。泣けますわ。

そして何より彼の手による曲が素晴らしい。ルーツ音楽への憧憬が深くにじんだ、親しみやすい佳曲のオン・パレード。駄曲皆無です。 冒頭の素朴で暖かい「 Taken For Granted 」で即死です。軸になるのが、インディアンの悲劇を歌った「 The Trail of Tears 」。オリジナルのアナログでは2曲目だったそうですが、本人の希望で中盤に移された。それもそのはず、サウンドがずっしり重く、冒頭の曲の次にこれが来たらちょっとちぐはぐになるかもな。イージーな乗りのカントリー・ロック「 Poor Lucy 」では本人の達者なギターソロも聴ける。ちょっとゴスペルっぽい「Idaho 」で幕を閉じる流れも実にいいです。


ザ・バンドって、背後に凄みとか歪みが重々しく横たわっていて、それが深みや充実感につながってるとは思うんだけど。
その点、確かにこれはヌルいかもしれない。でも、このひたすら優しい牧歌性がとても有り難い限りです。やたら早送りな日常でバタバタしてる日々を思えば、こういう音楽でノンビリと過ごせればどれだけ良いでしょう、と思ったりもする。
凄くは全くないけど、本当に良いアルバムです。
エイス、ブリン・ハワース、もちろんブリンズレー・シュワルツ等がお好きな方はマスト。

なお、次にモリスさんはこのあとアメリカに渡り、ベアーズビルでソングライターとして働くなど表に出る経歴が少なくなってしまい、ほとんど不明な人物でした。
それがこのライナーでは本人へのインタビューなどを元に、実に詳細に彼の経歴やアルバム作成までの経緯などが語られていますので一読すべきでしょう。結構な長文なので、日本盤の対訳がお奨めです。


日本盤はこっち。
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マーケット・プレイスを使えばリーズナブルな英国盤。
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