ハンバートハンバート 「11のみじかい話」

hidizo2006-01-14



ここ数年で出会った日本のミュージシャン達の中で、最も思い入れ深い人たちの一つ。

男女のデュオである。よく伸びる高音が美しい佐野遊歩さんと、野太く朴訥で寂しげな佐藤良成さんのふたり。曲はほぼ全て佐藤さんが手がけている。
という記述だと結構ありがちな感じがするでしょう。
しかし、本当に非凡な人たちだ。
まず、そのあまりにかけ離れた声質ふたりのキャラクターの立ち方が良いのだが、なにより二人でハモったときの声の混ざり具合が恐ろしいほど絶妙だ。
どうも美しいコーラスといっても、正確無比に音階が並ぶようなものには殆ど魅力を感じない。まず、声の主が判別できることが重要なんである。思い出して欲しい。CSN&Yの、美しいようで無骨、混ざっているようであくまで別物の声の連なりを。
あれだ。
あのスリルが肝なんだ。
メインヴォーカルとしては、ビブラート成分が少ない凛と澄み切った高音のため、日本でも相当珍しい英国のフォーク系の女性歌手のような佐野さんの声が美しい。
だが、佐藤さんがメインの曲で、そっと佐野さんのコーラスが寄り添ってくる瞬間なんぞ鳥肌ものだ。
むしろ、こっちの方が貴重な存在感がある気もする。


楽曲も素晴らしい。佐藤さんというひとは実に引き出しが多い。アルバム名に「11」と付いているように、ほぼ11曲のメロディの傾向が別もの。モチーフになっているのはアメリカ音楽。フォーク、カントリー、ブルーグラスあたりがメイン。転じてケルト風味も。
そして、一番彼の高い向上心を感じるのが、、日本の童謡や手まり歌などを意識した楽曲。わざとらしく「和」を意識したようなあざとさが微塵もなく、極めて自然に流れていく曲の有り様に驚く。ソウル・フラワー・ユニオンにこういう曲が書けたら、もっと違う行き道があったような気がする。

歌詞もまた良くできている。基本的にラブソングばかりだが、そこに描かれているのは二人の関係性のすれ違い、というか基本的には離別に至る。「話」のタイトル通り、ストーリー仕立て。ボタンを一つ掛け違えてしまっただけのことが結果的に微妙なすれ違いに転じていく微妙な展開を、これ以上ないほど簡単な言葉で紡いでいく。決して洒落たものではないのだけれど、そこで描かれる瑞々しさには心をとらわれるものがある。


この歌と楽曲を支えるサウンドがまた、実に的確な土臭さで素晴らしい。
楽曲の傾向に沿ったカントリー〜フォーク〜ケルト風味。フェアポート・コンベンションの1枚目と3枚目を混ぜ合わせたような趣だ。
必要以上にマニアックでもなければ、付け焼き刃では断じてない。結果としてはそこそこ泥臭くて、ださいのかも、っていう感じではあるのだが、間違いなく本当に粋な音楽とはこういうものだと断言したくなる味わい。佐藤さんはギターの他、フィドルマンドリンもいける。
彼らを支えているバンドは、数年来彼らのライブに付き合ってきただけあって、勘所もよく判っていて勢いもある。それが結果として甘ったるさを押さえた塩気につながっている。
10年は確実に聴けるアルバムだと思う。
ちなみに彼ら、他のアルバムも、傾向を少しずつ変えつつ極めて質が高い作品を作り続けている。


この人達、ライブの実力も極めて高いので、機会があったらご覧頂きたい。
本当に自然な歌の佇まいに包まれる安堵感があります。が、天然が大量に入った本人達の間の抜けたキャラクターが、うっとり酔わせることを許しませんが。面白いからいいんですけどね。


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