James Warren  「Jim's Easy Listening Album」

hidizo2006-01-31



ジェイムズ・ウォーレンは私が最も好きなシンガー/ソングライターの一人だ。何でシンガー・ソングライターという書き方でないかというと、この人は曲も書き歌うのだけれど、基本的にバンドの肩書きで活動してきたからだ。
で、そのバンドがスタックリッジとコーギス。どっちも英国ポップの「裏」で語られがちなバンドだけど、全くそんなことはない。単に大ヒットに恵まれなかっただけ(正確には、コーギスでは大ヒットシングルを持ってはいる。が、日本ではヒットに至らなかっただけ)で、どなた様にも全く違和感なく楽しんでいただける素晴らしい作品ばかりだ。

彼自身のソロ作は2枚。で、これは95年にリリースされた2作目を再編集して曲を追加したもの。
元のアルバムはクリスマス・アルバムで、数曲のカバー曲を含んでいた模様。今回カバーは落とされたが、全曲彼の曲で統一された。しかも16曲入りという大盤振る舞いだ。
リリースがジャケットなどのデザインの最悪さに定評のある英国のレーベルAngel Airで、今回もチープかつ購買意欲を損なう仕事ぶりですが、中身の素晴らしさがそんなのを遥かに忘却させてくれる。

彼の魅力は、技巧に走らないシンプルで聞き易いメロディと、こってりと甘い声にあるのだが、ここでもその魅力が全開。全曲驚異的なポップソング。自分の甘い声の魅力を存分に知り尽くした涙腺を直撃する切ないメロディの数々。メロディのパターンが多彩で、まあ結論は必殺の泣きのサビに落とし込む展開ではあるが、つなぎのような無駄なメロディが一つもなく、決して仰々しい泣かしに向かわない、さりげない美メロの嵐。
いいメロディを書く人のことを「ポール・マッカートニーを超えた」なんて言い回しで語ったりすることもありますが、大概「必死こいて良い曲を書いた結果」って感じの人が多いんだけど、この人は本当に口をついて出てくるメロディが凄い打率で美メロになってしまう体質なんじゃないかと思えてくる。そして、明らかにポールを軽々超えてる曲が沢山詰まっている。
どうやったらこんなに良い曲かけるんですか、と伺いたくなる。無論捨て曲皆無。頭からケツまでアンコがみっちり詰まった鯛焼きのような濃い楽曲群である。


基本的にホーム・レコーディングで、流石にプロダクションがリッチじゃないのでシンセを多用しドラムも打ち込みなのはちょいと寂しいが、キラキラしたエレポップ風のサウンドを構築していたコーギスみたいだ、と思えないこともない。ブライアン・ウィルソン的なコーラスワークやカリブ風のアレンジなどが目立つんだけど、スタックリッジ時代の相棒アンディ・ディヴィスの得意としてるエキゾ風味だったのを思い出したり。
ピアノを軸にした結構洒落たアレンジが中心で、AORまで後一歩なんだけど、ギリギリのところで間違ったスカした感覚に向かわない素朴体質も健在だ。
最後の最後に、コーギスの英国で5位の大ヒット曲「永遠の想い」のデモ・ヴァージョンという素晴らしいオマケまで付いてる。


自分で「イージー・リスニング」と言い放ってるのは伊達じゃない。聞き易いなんて生ぬるい物じゃなく、流れれば自然に耳の中に残ってしまう珠玉の一枚。ヌルく陽が照る日曜日の午後に呑気に聞きたい。
スクイーズは勿論セイラーとか1stの頃のジェリーフィッシュとか、ポップの甘さに気にならない人は聞かなきゃ大損。曲の良さで勝負する、純然たる「ポップ」のアルバムで、このクオリティのアルバムなんてはっきりいって1年に1枚出会えればいい方です。
しかし、本当に衰えを知らぬ良い声だ。グレン・ティルブルック的な甘さは素晴らしい。ライブで聞いてみたいなあ。


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