V.A. 「Brumbeat」

hidizo2006-05-06



ブラムビートって何だ?ってほど大上段に構えるもんでもない。
リヴァプールのマージービートに対して、バーミンガムのブラムビート。
ブラム(Brum)ってのがこの街の略称ですから。

そういうことなんですが、バーミンガムが実は結構な大物ミュージシャン達を生んでいることに意外と気が付かない。
ムーディ・ブルース
スペンサー・ディヴィス・グループ
ザ・ムーヴ(その発展系のELOもそういって良いだろう)
ブラック・サバス
トラフィックのクリス・ウッド以外のメンバー
チキンシャック(勿論クリスティン・パーフェクトも)
コージー・パウエル
フェアポート・コンヴェンションのデイヴ・ペグとディブ・スウォーブリック
UB40
そして何はなくともスレイド
明らかにタマはリヴァプール以上じゃないですか。
なのにビートルズ一個の存在のでかさ故、なんだかリヴァプールの方が「音楽の名産地」という印象が深かったりする。


で、その微妙なポジションのバーミンガムの60's中盤の様子を窺い知ることが出来る大変に有り難いコンピがこれ。
アタマがスペンサー・ディヴィス・グループのシングル「ディンプルズ」で始まっている以外は、63年から69年までの作品が年代順に並んでいる。ちなみに、「ディンプルズ」は64年の作品。さすがに、ドB級のバンドでコンピを始めるのに気が引けたんだろう。
シングルのB面曲なども多数収録してるあたりはマニアにも目配せしてるのか。よって一層際だつB級感が味である。


バーミンガムといえば工業都市で、かなり荒っぽい街だと聞いた気がする。
私は移動中の車窓から見たことがあるだけだけど、同じような赤っぽい煉瓦造りの建物が延々立ち並ぶ、一見たいへんに退屈そうな街であった。そういうところから派生するロックというと、物凄く荒っぽいんじゃないかと想像する。

ディスク1の前半からしてその通り。ですが、メロディは甘々でブルーズなどのルーツ色は薄く、ヴォーカルはタフで演奏もちょい荒っぽいのが多い。
この当時のバンドで英国的に有名なのはロッキン・ベリーズあたりだろう。
ピーター・バラカンさんが毛嫌いする「ダサいバンド」の代表ですが、元のブルーズだのカントリーだのロカビリーに直接当たらないで、他のバンドの曲をちょっと変えただけのうさんくさくて馬鹿みたいに聞き易い曲、妙に巧いコーラスなど、なかなか堪えられないモノがある。
こういう駄菓子のようなポップ性をもつ当時の英国のバンドの代表というとロンドンのトッテナムデイヴ・クラーク・ファイヴ、あれに通じる味。今聞くと結構格好いい。
本質的に甘ったるいモノをロックさせるために荒々しく歌ったりテンポを速くしたり、等の手管は後のパワー・ポップ・バンド群に通じるモノがある。

他に、既にキャバレー歌手になる未来が予見できそうなカール・ウェイン&ヴァイキングス(ウェインは後にザ・ムーヴのヴォーカルになる)は、結構変なアレンジであの「マイ・ガール」をやってたりする。
デイヴ・メイソンとジム・キャパルディが在籍したザ・ヘリオンズはジャッキー・デシャノンの「ディドリーミング・オブ・ユー」を。これはなかなかの名演です。

で、ムーディ・ブルースの「ゴー・ナウ」が出てくるんですが、何だか全国区とローカルバンドの間にある歴然とした差異が見えてしまうな。何かイントロのあのピアノから、いきなり堂々たる名曲オーラが浮かぶんだよな。
他にディスク1の聞き所としては、私も単独アンソロジーを持ってるそこそこ有名なジ・アグリーズ(The Ugly's)辺りか。いや、バンド名に惹かれたんですが本当に微妙なツラ揃いのバンドですが、これまた妙に甘くてサイケがかった珍曲の味わいは捨てがたいモノがある。フェアポートのディブ・ペグやELOのリチャード・タンディが在籍していた。とはいえ、本来は単独のアルバムで持ってるほど重要でもないと思うので、こういうコンピは良いんじゃないですかね。


ディスク2でいきなり登場するのはザ・ムーヴ「恐怖の街」。ディスク1のバンド群とは明らかに異なった突き抜け方をしている。あと、このディスクの後半ではムーヴに加入するジェフ・リンが在籍していたアイドル・レース(以前EMIから全曲集が出ていたけど今は廃盤で阿呆のような高値なので、微妙に貴重な音源であろう。まあB級ではあるけど流石にリン、曲は良い)も登場する。こういうコンピの面白さの醍醐味でありましょう。

続くThe N'Betweens(多分、インビトウィーンズとか読むんだろうか)は、ここから数名が抜けて、アンブローズ・スレイド、さらに後にスレイドと名乗るようになるわけですが、音源は初めて聴いた。アンブローズ・スレイドに近いサイケ気味のちょっと奇妙なサウンド。ノディの歌がチョイ青いのが微笑ましい。


他にディスク2のの聞き所としてはフェアポート・コンヴェンションのペグとスウォーブリックを含むイアン・キャンペル・グループ。元はフォークグループだったため、こういうポップ作での演奏は月並みに聞こえる。ちなみに、当地のフォークの父であるこのイアン・キャンペルは、アリとロビンのUB40のキャンペル兄弟の親父でもある。
そして、既にバスドラとシンバルが忙しないコージー・パウエル在籍のヤング・ブラッドあたりが貴重でしょうか。


全体を通してですが、ビートルズ・ファンのみにその名を知られるマイク・シェリダン(ビートルズの公式な初録音物は、ハンブルグで彼のバックを務めたものだった)とか、ピアノが格好いいピーター・ロンドン、名前と裏腹の駄菓子なサウンドのジ・ウルヴズ、物凄い地方のいなたさが漂うジミー・パウエルなど、こういう場でこそ出会える徒花の数々が嬉しい。


何せいくらバーミンガムのバンドとはいえレコーディングはロンドンで、しかも当時のレコード会社のプロダクトで行われているため、ストリングスやホーンが入っていたりもするので、強烈な地方性が匂い立つほどでもないですが、こういう視点で編まれているが故の共通性も理解できる。
・非ルーツ音楽
・駄菓子のようなポップ性
・コーラスの多用
この辺でしょうかね。
これが巧い具合に化学変化を起こすと、ムーヴ〜ELOとかプログレ時代のムーディ・ブルースに至るわけですか。
といったことが勝手に思い起こされる味わい深いコンピです。
どっちかというと資料性の高いものでもありますが、普通に楽しめます。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0009HL0PS/goodasgoldstu-22


なお、鬼のように詳しいブラムビートのサイト。
これを読みながら聞くと面白味が数倍に。
http://www.brumbeat.net/