Pure Reason Revolution 「The Dark Third」

hidizo2006-05-13



遂に出た。という言い回しを何度も使っているので気が引けますが、これはミステリー・ジェッツと並ぶ新人、レディング出身の五人組の待望のファースト・アルバム。とはいえ、以前紹介した彼らのミニアルバムは30分近いものだったので、実は待望感はちょい薄いかも知れない。ただし、音を聞いてしまった今では待望の、というのが実に相応しい、完成度の高い大作である。

一言で言ってプログレである

近年海外では日本で言うところのプログレをプログ・ロック(Prog Rock)と呼ぶわけですが、このカテゴリーにくくられるバンドは往年の大御所か、往年のスタイルを継承してる人たちが殆どで、まあ何というか外野の人たちにとってはどーでもいい感じがするニュアンスだったりする。そんななか「プログ」と呼ばれながら、外野の人たちの目をこちらに引き寄せることが出来そうな新星が彼らであると言えよう。


以前のミニアルバムにも増して、ピンク・フロイド的なサウンドの濃度が増した。
冒頭、脈拍のようなリズムに幾つかのエレメントが被さり、ギターのアルペジオやスライド・ギターが鳴り響くイントロは、否応なしに「狂気」を思い起こさせる。場面転換は多いが、無駄に加速したりせず、こけおどしもなく悠然とした流れを強調した展開、難しいことは殆どやっていないがニュアンスを重視した演奏。レディオヘッド等が遠回しに影響を臭わせているのとは違い、かなりど真ん中の攻め手である。
メインの歌い手は男女二人いる。フォークっぽい女性ヴォーカルの声質は魅力的だ。メンバー全員が参加し、高音を軸に展開するコーラスも複雑で、見事という他ない。
とても新人とは思えない堂々たる世界に引き込んでいく。

1曲目から5曲目までは完全に繋がっている。おそらく、あらかじめこの長さを想定した曲作りにはなっていないし、無理に引き延ばしたものでもない。曲内に他の曲のモチーフを入れたり曲間をつなぐ等の編集の結果で、トータルなドラマ性を演出している節がある。
特に、1曲目の「Aeropause」と、この一連の曲群の核になる4曲目の11分以上ある大作「The Bright Ambassadors of Morning」の2曲に特に強い関連性をもたせ、あたかも一枚岩のように聴かせる。おそらく、この2曲の要素を編集で他の曲のあちこちに切り貼りしていったのか。実に巧い。しかも「The Bright ...」自体が三部構成であり、ここで完結する世界と5曲続きの曲群のトータル性が呼応するかのよう。
ここから先も組曲仕立てが3曲ある。アルバムの最後は「Ambassador Reprise」で締められている。全体のトータル性を強調している感がある。
ただし、さほど仰々しい大作感がない。それは、DJが次々にレコードを掛け替えていくような感覚で編集されているからじゃないか。全体のリズムがさほど激しく変わらず、滑らかに流れていく。流れてはいるが転換はされている。そんな感じ。


まあ、実にプログレ的な要素が多いバンドではあるのだが、なんだか彼らをプログレと言い切るのも収まりが悪い気がする。
ヴァイオリンを多用すれどもクラシックやジャズなどの要素が薄い。またテクニック至上主義でもない。ループや打ち込みも多用し、コーン以降のバンドという感じがするざっくりしたメタリックなギターが鳴ったり、20代前半という彼らの年齢に相応しいサウンドが散見する。
ドラマチックではあるが、大袈裟になりきらない乾いた質感は確実に新しい。フロイド的な要素はあるけれど、似ているところまで抱え込んでいないし、かと言って他の何かのバンドに似ている感じもしない。

楽曲の質の高さ、ヴォーカルワークの巧さ、なにより構成の見事さは驚くばかり。
個人的にはミステリー・ジェッツよりは彼らを推したい。
とんでもない新人のとんでもない傑作。
注目しておいて損はない。


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