Hank Williams III 「Straight to Hell」

hidizo2006-05-17



ミニストリーのアル・ジュールゲンセンの
真にデカダンな音楽はロックンロールじゃなく、カントリーだ。
ガンズ&ローゼスなんぞはハンク・ウイリアムスの足元にも及ばない

というような発言を覚えている人がどれくらい居るか判りませんが、私はこのインタビューを読んだとき笑ったね。
だってカントリーでしょ。
テンガロンハット被ってヒラヒラの付いた服着てアコギ持って、カン高いクリアな声で歌う。陽気なアメリケン。そういう貧困な無知から来る偏見ってやつ。

しかし、ほんのちょっとでも覗いてみたカントリーの世界は、実に病んでねじ曲がっていて、アルの発言が100%マジだったことにこの数年で気づくようになった。
勿論例外もあるけど、殺人や不倫の歌が実に多いし。
有名歌手もデカダン揃い。
黒ずくめの服で絞首刑直前の囚人の歌などを作りクスリを大量に服用してステージでぶっ倒れたジョニー・キャッシュとか、未成年と結婚しようとしたジェリー・リー・ルイスとか。
で、アルの話に出たハンク・ウイリアムスは極度のアル中で人生の闇を覗いたような暗い歌ばかりを作り続けた。ザザのアルバム「ハンキー・パンキー」は全曲ウイリアムスのカバーだったのだが、あれはマット・ジョンソンの根の暗さだけではなく、ウイリアムスの途方もない暗さが呼び込んだ重々しさだったわけです。


ややこしいことにハンク・ウイリアムスは三代に渡ってその名を名乗っている。その三代目が今日ご紹介する主人公ですが、彼を知ればいかにカントリーが「デカダン」極まりないか、容易に判ると思う。


このアルバム、サウンドは割とイメージに近いカントリー風ではある。ギターの音の選び方やイラついたようなビート感など、既にただ者ではない不穏な空気が漂っている。そしてそこに乗る三世のヴォーカルの塩辛さはどうだ。トム・ウエイツとかJマスシスとか、ああいった類の荒みと人を馬鹿にしたようなシニカルさが共存する、そう簡単に死にそうにないタフな声である。

このアルバムには「クリーン・リリックス・ヴァージョン」もあるのですが、このオリジナルの歌詞の方のを聴くと「こりゃラジオじゃ流せんだろう」と納得すること必至。シットやファックは10秒も聴いてれば出てくるし。いくつか判った歌詞の内容は同業者のカントリー歌手どもが如何に腐ってるかとか(ファック・ナッシュビル主義らしい)、俺は誰からも嫌われてるとか、みんな死ぬしかないとか、ネガティヴなのばっかり。

だいたいこのタイトルは何だ。「地獄一直線」。ジャケも禍々しくてスラッシュ・メタル風。
率いるバンドは「アス・ジャック」。
驚くのは未だ早い。ちょいと彼のホームページを覗いてきて欲しい。特に壁紙のダウンロードと写真のページ。
http://www.hank3.com/
ブラック・フラッグみたいな「Ⅲ」のロゴ。骸骨やハッパだらけのまるっきりメタルのようなセンスが、アメリカ南軍の旗と絡まっている危険なデザインの数々。
リンクのページを見ればGGアリンとかアンチシーン、ラム・オブ・ゴッド、マストドン、それにポルノ映画の監督などが並んでいる。
しかも、アルバムリリース後の最新音源はアンチシーンとのスプリット7インチ
さらに、マーダー・ジャンキーズとツアー中。
そういうことなのである。
根っからのアウトローである。

ちなみに、2枚組の特別版のボーナス・ディスクがまた凄い。弾き語りっぽい1曲が終わると、ノン・クレジットで20分以上の謎の隠しトラックに突入するが、デモみたいな劣悪な弾き語りや街のノイズなどが延々コラージュされているこれに至ってはカントリーっぽさからはほど遠い。
ロウファイのころの謎の弾き語りの連中の存在を思い起こさずには居られない。


今の時代にリアルを求めると荒まざるをえなくなるのか。とかいろいろな事が頭をよぎりますが、ここでの彼の歌や楽曲の手応えは確実にリアルだ。闇と病みが入り交じったクソ食らえの嵐。表層的にはカントリー以外の何物でもないけど、ぶっ壊れ系シンガー・ソングライターとしても聴けるはずだ。そういう臭いはガンガンに漂ってるはず。
まさにガンズよりデカダン。孫もデカダン


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