The Motors  「Tenement steps」

hidizo2006-04-27



いくら友好的な別れであったとはいえ、ブラム・チャイコフスキー、続いてドラムのリック・スローターまで脱退してしまう事態は、ガーヴェイとマクマスターにとっても痛手であったのだろう。ライヴなども行わないまま、1年半の年月が流れてしまう。
後追いの私は想像するのみだが、この80年前後の時期の1年半の空白というのはとてつもなく大きいのではないか。激流のようにバンドが登場し淘汰され、より個性的なバンド群が脱皮後のようにむくむく出てくるわけで、すっかり「あの人は今」状態になってたんじゃ無かろうか。

しかし、80年に再びモーターズは浮上する。
結局メンバーはガーヴェイとマクマスターの二人。プロデュースも二人に。リズム隊をサポートに迎える形での再出発であった。
CDだと判らないんですが、オリジナル盤は六角形の変形ジャケット。トラフィックの「ザ・ロウ・スパーク・オブ・ザ・ハイヒールド・ボーイズ」あたりに通じる形状のもの。


全く個人的な意見ですが、私はモーターズの三作のなかでこのアルバムが最も好きだ。最高傑作だと思っているくらいだ。
大きな理由が一つ。
アルバム冒頭に収められた「ラヴ・アンド・ロンリネス」。これを必要以上に愛しているからである

短いドラムのフィル・インに導かれ、ギターがスピーディーなリフを鳴らす。そこに、煌びやかなシンセが大鐘でも鳴らすような派手なフレーズを差し込んでくる。続いてギターやキーボードが叙情的なメロディを次々に惜しげもなく投げ込んでくる。言わば一作目の「ダンシング・ザ・ナイト・アウェイ」と同様の構成だが、その洗練は比較しがたいものがある。若干大仰なアレンジと共に歌われるメインのメロディも美しい。サビの盛り上がりも申し分なし。ひたすら高揚感を煽る間奏のシンセ。個人的には、歌もアレンジもメロディも、実に完璧なポップソングの一つだ。


勿論、この一曲だけが良い、というだけで最高傑作とは言わない。三作中もっとも果敢に挑戦する彼らの姿があるからだ。
二曲目「メトロポリス」は、実に奇妙なメロディの曲で、何故これがシングルで切られたのか、最初は疑問に感じる。しかし、ストリングスなども使ったサイケ/プログレ的な仕掛けの多いアレンジの妙で聞き返しに耐える作品になっている。
四曲目「ザッツ・ワット・ジョン・セッド」もシングル曲で、ビートルズの「オー!ダーリン」を更にオールディーズ風にしてピアノをシンセにしたような曲。ちなみにシングルのジャケが素晴らしい。いろんな「ジョン」からセリフを書き込んでない吹き出しが出ているデザインで、ケネディもロットンもレノンもピールもウェインもトラボルタもエントウィッスルもクリーズ(モンティパイソンですわ)もいる。
六曲目「スラム・ピープル」はストリングスとホーンセクションまで入れ、後期ムーディ・ブルースかELOかはたまたミュージカルかという大仰なノリに仕上がった。
ラストの「ナイトメア・ゼロ」はラ!デュッセルドルフかホーク・ウインドかといったハンマービートで突っ走る。やっとここに来てニューウエイヴっぽい曲が出てきたのか。


というわけで、彼ららしい古くさいタイプの曲と、逆にニューウエイヴ的な曲が同居するこのアルバム。散漫に聞こえる可能性もある。それは、既にバンドという形態ではなく、ガーヴェイとマクマスターを中心としたプロジェクトであるという割り切りから生まれた多彩さであろう。いろいろなことをやりつつも、基本的にはポップソングに仕上げる気概があるため、決して独りよがりな拡散ではない。


とはいえ、その真意は今ひとつイギリスでは伝わらなかったようで、批評・セールスともに全く振るわなかった。実際、変形ジャケという付加価値があるのに、アナログ盤は阿呆のように安く中古盤店でたたき売られている。
結局、バンドは解散してしまう。
しかし皮肉なことに、アメリカでは「ラブ・アンド・ロンリネス」が初めてチャートにランクインし、アメリカでの最大のヒット作となった。


さて、今回のリイシューで一番お得なのが本作。大量9曲のボーナストラック。
シングル・ヴァージョンもさることながら、シングルのみのカップリング曲が本編以上に強力なポップ作ばかり。そして、解散後にリリースされたベスト盤に収められていたリミックスが3曲。
というわけで割と見落とされがちな本作ですが、個人的には一番お奨めさせて頂きます。


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