Don Ellis 「New Don Ellis Band Goes Underground」

hidizo2006-06-17



物凄い勢いで変拍子をカマしまくる独特のアンサンブルを構築したトランペッター、ドン・エリス。
彼のアルバムのCD化が牛歩の如く進んでいて、店頭で見つけると思わず買っている。
で、これは69年のアルバム。

副題に「フィーチャリング・パティ・アレン」とある。女性ヴォーカルの名前ですが、別に全編ヴォーカルが入ってるわけではありません。12曲中4曲くらいか。
でも、このヴォーカルはちょっと疑問。音程は不安定で迫力もない。何で入れたんだろうな。もっと良いヴォーカル、探せばいるだろうに。


しかしまあ、基本的な内容は、この時期の彼ならではの大編成によるブラスがぶっぶか鳴り響く痛快な変拍子バンド。キャッチーな旋律に乗ってユニゾンがガツンガツン決まり、明快なリズムが跳ねまくる。時代の関係か「エレクトリック・バス」の時期以上にロック/R&B色が強い。
ベストトラックはM9の「Love For Rent」だろう。一言で言えば踊りにくいJB's。リズムは入り組み、構成は一筋縄ではいかないが、思いっきりファンクの時代を先取りしたノリまくりの重たいリズムが刻まれる快感に満ちている。ホーンのアンサンブルが自在に乗り、エフェクターを大量にカマしたエリス自身のペットがエコーまみれで鳴り響く。そしてジミヘン/ブルーズ・ロックの影響まるかぶりのジェイ・グレイドンのギターソロまで登場する。これは格好いい。
ここでいう「アンダーグラウンド」は、ハービー・マンの「メンフィス・アンダーグラウンド」みたいな意味での「アングラ」なんでしょう。別に物凄く前衛的なことをやってる訳じゃなく、ジャズから見てアングラ、もっというならヒップ、ってな雰囲気での意味なんでしょうか。


そういう意味で、ローラ・ニーロオーティス・レディングで相当に有名だった「イーライズ・カミン」を取り上げてるのは驚かないけど、この1曲のみをプロデュースした人の名前を見ると流石に驚く。
アル・クーパーである。
というのも、かの「エレクトリック・バス」の衝撃が、彼をブラッド・スエット&ティアーズの結成に走らせたという説もある。その当事者が登場するとは。ただし、アレンジ自体は結構普通。ラテン風味のリズムは使ってるけど。まあそれほど期待するほどのものでもないでしょう。とはいえ、この前後エリスのアルバム「オータム」をプロデュースした経歴があったりもするのだが。
他に、ハリー・ニルソンの「ドント・リーヴ・ミー」、スライ&ザ・ファミリーストーンの「ハイアー」アイズレー・ブラザースの「イッツ・ユア・シング」を取り上げてる事からも判るとおり、当時の変動するポップ・ミュージックへの希求がモロに出た作りである。
また、女性エレクトリック・ベーシストのキャロル・ケイが登場する。モータウンの名曲数々におけるそれまでジェイムズ・ジェマーソンによると思われた名演の多くを「自分が演奏した」と主張して話題になったLAのスタジオ系の名手(おそらく、ショッキングだがそれが事実であるのは間違いない)。
ここでの2曲はどちらもアレンの歌をフィーチャーした歌もので、彼女の思いっきりモータウンのりのベースが続出、これまた最高に格好いい。ただ、歌がもっとよけりゃなあ。それが残念。


そのうえ、モロにブルガリアのあの複雑で早急なリズム展開を意識した曲もあったりする。ワールド・ミュージックのブームの遥か昔である。何と幅が広いんだろうか。


あきらかにジャズにファイルされるアルバムですが、「エレクトリック・バス」共々、ブラス・ロック/ジャズ・ロック方面に関心がある方、芳垣安洋さんのリズム・アンサンブルに痺れている方々は即死であると思います。

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