The Motors 「1」

愛すべき英国のB級パワー・ポップ・バンド、モーターズのアルバム３作がリイシューされました。
めでたい。というわけで彼らについて書かせて頂きます。

当時の日本盤のアナログを持っているのだが、解説がなんと伊藤政則氏である。メタル・ゴッドである。

このバンドの認識としては、ニューウエイヴ/パワーポップ的なものかと思っていたので、結構面食らうわけだ。
でも、文面を読めば納得。政則氏も彼らをニューウエイヴ以降の存在であると認識しつつ、言わばステイタス・クォの流れにあるハードなバンドだという解釈。いや、全く間違ってないと思うし、たしかにこれなら政則氏が書く意味もあろうというものだ。

パンク・ムーブメントのまっただ中の77年2月に結成。中心メンバーのニック・ガーヴェイ(vo/g)とアンディ・マクマスター(b/key/vo)は、パブ・ロックとパンクの直接的な橋渡しをしたと言われているダックス・デラックスの出身。すでに十分にキャリアがあるミュージシャンではあるが、ストラングラーズ等の例と同様、ある程度キャリアも実力も持ったミュージシャンがパンクに感化されて凶暴化する、という図式ですかね。

その結成と同じ77年に登場したのがこの１作目。
まず面食らうのが最初のシングルでもあった「ダンシング・ザ・ナイト・アウェイ」。ギターのアルペジオからスタート、大仰なアタックと共に今度はアコギまでが絡んできてアルペジオを刻みつつ、更に大仰に追い込んでいく。そこから全く別のリフが立ち上がり、重めのリズムと共にブギーを刻んでいく。三人のハモリが一体になった塩辛い歌が入ってくるのが実に2分以上経った頃。基本的にはポップな歌ものロックンロールなのだけど、いきなり曲尺は六分半以上。
これ、パンクとかニューウエイヴの常識からするとエラい規格外だ。
ストラングラーズとかダムドにもイントロの長い曲はあるが、それをデビュー作の一曲目には持ってこないだろう。これが無自覚の産物なのかある種の挑発なのかは判らない。こういう構成ってジェネシスあたりが得意としていたものだ。
ただし、所謂ハードロック/プログレのバンドとはギターの音圧や歌の質感がかなり異なる。随分とドライなのだ。
なお、最初のシングル曲ではあるのですが、シングルは別のテイク。イントロは歌の直前までばっさりカットされているし、ギターなどが敷き詰められたミックスは分厚く前のめり。アルバムよりは遥かに(クリス・トーマス的に)パンクっぽい。

この一曲目がアルバムを象徴するように、ここでの彼らの音は確かにパブ・ロック〜ニューウエイヴの流れにあることは間違いないのだが、微妙に旧世代のハードロックっぽい古い臭みが漂う。フルアルバムで8曲入り、ということはシンプルというよりは展開がそこそこ凝った長めの曲が並んでいることに他ならないわけだし。
だいたい、ジャケのだささと来たらどうだ。野球チームみたいなロゴに、あか抜けないメンバーの姿。白地を多くとったデザインはそれなりにニューウエイヴっぽさを出そうとしてるのかも知れないが、マヌケだな。
レゲエを取り入れた「コールド・ラヴ」という曲にしても、ビートルズの「シー・ケイム・イン・スルー・ア・バス・ルーム・ウインドウ」に似たウエットなメロディがあったりして、同時代のバンドによるニヒルな解釈よりは「オブラディ・オブラダ」に近いといっても良いかもしれない。

ただ、アルバム後半に並んだ曲は速急なノリを持つものも多く、以前の世代のハードロックとはリズム等に対する考え方が違うことを納得させてくれる。
既に複数のヴォーカリストによる分厚いコーラスや、キレの良さよりはもったりしたノリのあるサウンド、フックだらけの哀愁の曲作り、といった個性は完全に開花している。
全８曲、捨て曲なしのパワーポップ作である。

なお、今回"Captain Oi!"(いいレーベル名でしょ。ディッキーズなどのリイシューで知られる名前通りのレーベル。ん？ってことはモーターズもOi!の源流だったりするのか？)から久々のリイシューされたCDは、今までのCDとは比較にならないくらいバキバキにメリハリのあるリマスターが成されていて、ボーナス・トラックが４曲追加。「ダンシング...」の7インチ・ヴァージョンも入っているのも嬉しい。ちなみに、ボーナス４曲も無駄なしの出来。
まあ"Captain Oi"はアートワーク関係の仕事はあんまり誉められたものではない。ジャケ写もボケ気味のうえ、ロゴや写真などがオリジナルよりはデカめの比率で配置され、一層ダサさ倍増。ブックレットに各種クレジットは無いし不満も多いのですが、音盤自体の仕事はなかなか素晴らしいので手に入れて損はありません。

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